スマートフォンのコネクタ箇所のAES分析及びEBSD分析

Li、MgのオージェマッピングとArイオンエッチングによる表面の結晶性改善

試料:CPでの断面試料作製を行ったMg-Li合金

分析条件:【オージェ分析】M5、10kV/10nA【EBSD】15kV/5nA/エッチング条件1.0kV/0.7μA

Mgが多く含まれるHCP構造のα相、Liが多く含まれるBCC構造のβ相の2相が存在するMgLi合金に対して、CPでの断面作製を行った後、AESに導入しました。大気中に出した時点で表面は酸化被膜が形成され、オージェ分析を実施してみますとMg、Li、Oのピークが出現している事が分かる他、LVV領域のピーク位置を評価してみると、MgはMgO、LiはLi₂Oの化学結合状態に近しい事が分かります。MgとLiのオージェピークの強度をビームスキャンをさせて取得していく事で、MgとLiの分布状況を表現するオージェマッピング像を取得する事が可能です。

この試料に対してEBSDを取得してみます。CPでの加工面は結晶性が良く、菊池パターンを取得する上で最適な加工法です。この試料では菊池パターンは問題なく取得する事が出来るのですが、オージェ分析上、β相と評価が出来ている相のEBSDではβ相ではなくα相と判定されています。恐らく、酸化被膜形成により、結晶性が変質したためと考えられます。

この試料に対し、装置に付属しているAr⁺イオンガンを用いたイオンエッチングを実施し、酸化被膜と結晶性が変質した層を除去します。オージェ分析ではMgとLiのLVV領域のピーク位置が変化し、共にメタルの状態に近しいポジションに変わっています。EBSDではα相の判定を受けていたβ相が、今度は正常な菊池パターンを示し、β相の判定を正しく受けています。

このようにオージェ分析分光装置ではAr⁺エッチングを分析室内部で実行する事が出来、表面に存在する汚染物質、酸化被膜、変質層の除去が実施出来ます。この他、方位差に基づくエッチングでの削れ方の違いを利用し、粒界を浮き上がらせ、結晶コントラストを改善したSEM観察なども行えます。

 

 

Nb-Si合金に対するArイオンエッチングの加工歪層除去とEBSD測定

試料:CPでの断面試料作製を行ったNb-Si合金

分析条件:【オージェ分析】M5、10kV/10nA【EBSD】20kV/5nA/エッチング条件1.0kV/0.7μA

Nb主体の相、Nb₅Si₃主体の相、他第3相を有する複数相の試料で、CPにより断面作製を行ったものをオージェ電子分光装置に導入し、EBSDを取得すると、Nb相は菊池パターンが明瞭に現れ、IPFmapも方位を問題なく描けているのですが、Nb₅Si₃相の方は菊池パターンが明瞭に得られず、ランダムな方位を示しています。この相のCI値が0.1以上を持つ割合は1割ほどです。


この試料に対し、オージェ分析室内でイオンガンによるAr⁺イオンエッチングを行い、その前後での各相のオージェスペクトルを確認します。するとNb相ではエッチング前後ではコンタミの除去以外大きな変化はない一方、Nb₅Si₃相ではエッチングにより、組成に変化が見られます。恐らく表面にはCPでの加工の際に形成された変質層が存在していたのではないかと考えられます。

 

Ar⁺イオンエッチングを続けて表面の変質層を除去していきながらEBSD測定を実施していくと徐々にNb₅Si₃相の菊池パターンが明瞭になっていき、CI値>0.1以上の割合が増加していきます。IPMマップではランダムな方位を示していた箇所が粒ごとの方位に変わっていきました。

このようにオージェ電子分光装置ではEBSD測定が上手くいかなった試料について、変質層をイオンエッチングで除去して改善する事が出来ます。

 

オージェ電子分光装置のイオンガンを利用したTEM試料の改善

試料:FIBで加工した単結晶SiのTEM用試料

分析条件:【オージェ分析】M5、10kV/10nA【EBSD】15kV/5nA/エッチング条件1.0kV/0.7μA

単結晶SiをFIBのGa⁺イオンビームで切り出したTEM試料に対し、オージェ分析、EBSD測定を実施してみます。スペクトルではC, O, Siが出現し、コンタミと酸化被膜が表面にある事が分かり、EBSDでは菊池パターンが見られず、IPFmapはランダムな方位を示しています。

この試料に対し、オージェ電子分光装置内でAr⁺イオンエッチングを実施しながら、都度オージェ分析とEBSD測定を実施してみます。酸化被膜については最初のエッチングで酸素の割合が減少し、ほぼ除去出来ているのですが、EBSD測定はこの段階ではまだランダムの方位を示しています。さらに削っていく事でCI値の向上と方位が揃う様子が確認出来ました。FIBでの加工で生じたアモルファス層が表面に存在し、これをAr⁺イオンエッチング除去出来たため、EBSD測定が実施出来たと考えられます。

このようにアモルファス層を形成してしまったTEM試料に対し、Arイオンエッチングを行う事で表面を改質し、TEM観察を改善させる事も可能です。単結晶SiのTEM試料に対し、両面オージェ電子分光装置内でArイオンエッチングを施し、TEM観察を行ってみます。未処理のものと比較して、回折像ではアモルファス層相由来のリングが消失している事が分かり、TEM像では明瞭ではなかった原子の配列の縞模様が処理後の方で見られます。このようにTEM試料の改善にもオージェ電子分光装置は有効です。

熱処理でアルミナ被覆された鉄鋼材料のArイオンエッチングとEBSD測定

試料:FIBでグリッドを表面に作製したのち高温引張試験を行った鉄鋼材

分析条件:【オージェ分析】M5、10kV/10nA【EBSD】20kV/5nA/エッチング条件3.0kV/0.7μA

高温引張試験時の粒界すべりを見るため、格子模様が刻まれた引張試験片に対し、EBSD測定を実施しました。試料表面は高温処理によりアルミナの被膜が厚く形成されている事がオージェスペクトルから分かります。未処理では菊池パターンを測定する事が出来ません。機械研磨などで表面を削ってアルミナ層を除去したいところですが、やり過ぎると刻んだグリッド線自体を消してしまうため、調整が難しいです。オージェ電子分光装置内でAr⁺イオンエッチングを施せば、SEM像で表面の様子を都度伺いながら削っていく事が可能です。

エッチングを行っていく事でIPF mapとCI値が向上していく様子が確認出来ます。グリッド線を残した状態で、EBSD測定が実施出来、粒界すべりを確認する事が出来ました。

このようにオージェ電子分光装置ではAr⁺イオンエッチングを利用して、表面の被膜を除去してEBSD測定を改善させる事が可能です。

 

Spectrum image機能を利用した鉛フリーはんだのオージェマッピング測定

試料:鉛フリーはんだ

分析条件:【オージェ分析】M5、10kV/10nA、エッチング条件3.0kV/0.7μA

オージェ電子分光装置(JAMP-9500F)ではSpectrum image法による測定が実施出来ます。分光器を調整して順次測定エネルギーエリアを変えながら、視野全域をスキャンして、視野内全ピクセルで指定範囲のスペクトルを取得する手法です。得られたキューブデータを再構築する事でマッピングを作成する事が出来ます。

Spectrum imageで鉛フリーはんだに含まれるAg、Sn、Cuのメインピークが現れるエネルギーエリアの測定を仕掛けてキューブデータを取得後、再構築ソフトのEFSEMviewerでデータを読み込み、マッピングを作成するエネルギーエリアの指定を行います。Ag、Sn、Cuのマッピング像をRGB合成する事で、分布が分かりやすくなります。

このようにオージェ電子分光装置ではSpectrum image法でのオージェマッピングが可能尾です。視野全域のスペクトルを確認しながらマッピングを作成する事が出来るので、試料表面の状況を見間違える事が少なくなります。

 

人工海水で腐食させた鉄鋼試料のオージェ分析とCCPによる試料断面作製

試料:人工海水(アクアマリン)で腐食させた鉄鋼材

分析条件:【オージェ分析】M5、10 kV /10 nA

断面作製条件:AuスパッタリングでAuのコーティングを行った後に、G2エポキシで樹脂埋め。クライオクロスセクションポリッシャにて加速電圧8 kVのAr⁺イオンビームで断面を作製する。

試料表面のSEM像観察では、人工海水で腐食させた試料表面において、無数の針状の錆構造が見られます。またあまり錆の成長が進行しておらず、薄くモヤモヤした構造が見られる箇所もあります。

錆の成長が比較的進んでいる箇所、ほとんど進んでいない箇所でそれぞれオージェ点分析を実施すると、下図のようなスペクトルの違いが得られます。錆が成長していない箇所ではFe, Oのピーク以外にMgやCuのピークが確認されています。腐食の抑制に関わっているのではと考えられます。

クライオクロスセクションポリッシャで表面の錆部分の断面を作製してみて、SEM像観察を行ったのが下の画像です。錆の針状組織について断面から構造を見る事が出来ます。表面の分析と同様にこの断面に対してもオージェ分析を実施することが出来ます。ただし腐食の抑制につながっているMgやCuについては非常に薄い分布であるため、表面からは信号を検出出来るものの、断面側からだと分布評価が非常に難しいです。